発達障害のある子どもの育児は、日常の中にたくさんの工夫と配慮が求められます。
療育の送迎、園や学校との連携、家庭での関わり方――どれも一人で背負うには重すぎるテーマです。
しかし、療育教室で保護者面談を重ねるなかで、私は何度もこんな言葉に出会ってきました。
「夫が分かってくれない」
「妻と意見が合わず、ケンカが増えた」
「すれ違っているけど、どうしていいか分からない」
それもそのはずです。発達障害育児は、“正解のない旅”のようなもの。
夫婦が同じ方向を向きながら歩むには、ちょっとした“道標”と“共有の地図”が必要なのです。
この記事では、現場での支援経験をもとに、すれ違いを減らし、夫婦でチームとして育児に向き合うための7つの方法をお伝えします。
① 情報を「共有」ではなく「見える化」する
夫婦間ですれ違いが起きる一番の原因は、「情報格差」です。
「こんなに大変なのに」「え?そんなこと知らなかった」――この温度差がケンカの火種になります。
例えば、療育の内容や学校とのやり取り、子どもの様子など、母親が一人で把握しているケースが多いのですが、それでは夫は“蚊帳の外”に感じがちです。
そこでおすすめしたいのが、情報の「見える化」です。
- Googleカレンダーに「療育予定・園の行事・面談」などを共有
- 子どもの様子や困りごとを、日記アプリやLINEで簡単に記録
- 家の壁にホワイトボードを設置し「今週の子どもトピック」をメモ
→ 情報を“主観”でなく“客観”で伝えることで、夫婦間の誤解が減ります。
② 相手の「得意な分野」で役割分担する
「なんで全部私ばっかりやってるの?」
「どうやって関わればいいか分からない」
――これは“役割のミスマッチ”が起きているサインです。
夫婦が対等な関係で子育てに向き合うには、「得意なこと・できること」にフォーカスして役割を決めるのが効果的です。
- 妻:療育や行政手続きが得意 → 事務系サポートを担当
- 夫:体を使った遊びやITが得意 → 遊び&情報収集係を担当
→ 「すべて半分ずつ」ではなく、「自分に向いていることを活かす」ことが連携のカギです。
③ 「子どもが寝たあと」は夫婦の“報告タイム”にする
子ども中心の生活に追われていると、夫婦で話す時間すら持てなくなってしまいます。
でも、意識的に“共有の時間”をつくることが、すれ違いを防ぐ最大の秘訣です。
- 毎晩10分だけ、子どもの話をする時間をつくる
- 今日の子どもの様子、困ったこと、うれしかったことを1つずつ報告
- 「今日どうだった?」とお互いに聞き合うルールに
→ 会話の時間が短くても、“気持ちの通い合い”が夫婦の土台を支えます。
④ 相手を「正す」より「理解する」姿勢をもつ
支援現場では、「意見の違い」から夫婦関係がギクシャクしてしまうケースも少なくありません。
例えば、夫は「もっと厳しくすべき」と言い、妻は「理解が必要」と言う――意見がぶつかるのです。
でも実は、どちらも“子どものため”を思っての言葉であることがほとんど。
だからこそ、「正す」より「まず聞く」「理解する」姿勢が大切です。
- 「それは違う」→「そういう見方もあるね」
- 「なんで分からないの?」→「どう思ったか教えてくれる?」
- 「もう話したくない」→「ちょっと時間をおこうか」
→ 小さな対話の積み重ねが、“一緒に育てる”関係をつくります。
⑤ 外部の力を「頼る勇気」をもつ
発達障害育児は、夫婦だけで完結できるものではありません。
相談支援員、療育教室、家族支援センター、SNSコミュニティ――頼れる場所はたくさんあります。
夫婦のどちらかが限界を迎える前に、「誰かに話す」「つながる」ことが大切です。
- 市町村の子育て支援センターや福祉事務所
- 発達支援センターや児童発達支援事業所
- 相談支援事業所や児童発達支援事業所
- オンラインカウンセリングなど
→ “夫婦間のパイプ役”を外部が担うことで、見えてくる解決策もあります。
⑥ 「ありがとう」を言葉で伝えるクセをつける
忙しい毎日の中で、一番忘れられがちなのがこの言葉です。
「ありがとう」
些細なことでも、「伝える習慣」があるかどうかで、夫婦の空気は驚くほど変わります。
- 毎日1つ、相手に感謝できたことを声に出す
- 「送迎ありがとう」「話を聞いてくれてありがとう」など具体的に
- 子どもと一緒に「ありがとうタイム」を作ってもOK
→ 子どもの前で夫婦が感謝し合う姿を見せることも、最高の“療育”になります。
⑦ 「未来のビジョン」を一緒に描く
目の前の困りごとに追われすぎると、夫婦で“未来を語る”ことを忘れてしまいます。
でも、将来のイメージを共有することこそ、夫婦の結束を深める大きな力になります。
- 子どもが10年後にどうなっていたら嬉しい?
- 家族でやってみたいことは?
- パパ・ママとして、どんな親でありたい?
→ この対話は、「同じ方向を向いている実感」を育みます。
おわりに|夫婦は“チーム”。どちらかが倒れても、立て直せる関係を
療育の現場で多くのご家族を見てきた私が、確信していることがあります。
それは、夫婦が「お互いを理解しよう」とするだけで、子どもにとっての安心感が何倍にもなるということ。
すれ違いは、どの家庭にも起こります。
でも、それを“責め合い”ではなく、“知り合い直すチャンス”に変えていく――その積み重ねが、きっと家族全体を強くしてくれます。
どうか、「夫婦で育てる」という感覚を忘れずに。
あなたのご家庭が、少しでも心地よいチームになりますように。