こんにちは。社会福祉士として障害福祉・個別療育の現場で10年以上関わってきた筆者が、「現場のリアル」をお届けするこの連載。
初回のテーマは、「療育=子ども支援」というイメージに、一石を投じるお話です。
「子どもだけを見ていればいい」は通用しない
療育と聞くと、多くの人が「発達に特性のある子どもを支援するもの」と思い浮かべるでしょう。
たしかにそれは間違っていません。けれど、実際の現場で見えてくるのは、子どもだけを支援しても根本的な変化は起こりにくいという事実です。
子どもが変わるには、「周囲の大人が変わること」「家庭の環境が整うこと」が大きく影響します。だからこそ、私たち支援者は、子どもの背景にある“家族”や“生活環境”にも深く関わる必要があるのです。
保護者は“もう限界”なこともある
療育に通っているご家庭の多くは、すでに長い時間、悩みと不安の中にいます。
- 「育て方が悪いんじゃないか」と責められた過去
- 保育園や学校との連携がうまくいかないジレンマ
- 終わりのない育児と療育の疲れ
私が出会ってきた保護者の中には、子どもの支援計画の話をしても、話の半分が頭に入っていないように見える方もいました。後で聞けば、前夜は眠れず、朝も子どものパニックで家を出るだけで精一杯だった、と。
そんな状況で、「家庭でもこの支援をやってくださいね」と伝えることに、どれほど意味があるでしょうか?
社会福祉士だからできる「全体を見る支援」
心理士や作業療法士・言語聴覚士など専門職が「子どもの発達」に特化して支援をする一方で、社会福祉士は、生活全体を見ること、家族全体を支えることに強みがあります。
具体的には…
- 支援の場が家庭・園・学校・地域までまたがっている場合のコーディネート
- 保護者が抱える困りごと(経済的負担、制度の使いづらさ、仕事との両立など)に対する相談支援
- きょうだい児への配慮や、家族関係のストレスへの心理的なサポート
療育という“点の支援”を、生活という“線”や“面”でつなげていくのが、社会福祉士の役割なのです。
「家庭という現場」に入っていくことの大切さ
私たち社会福祉士は、相談や面談の中で、生活のリアルを肌で感じる機会が多くあります。
そこで見えるのは、療育の教室ではわからない、
- 親子の関係性
- 朝の登園の難しさ
- 食事や排泄の習慣
- 兄弟間のトラブル
など、“生活支援としての療育”の必要性です。
たとえば、教室でどんなに頑張って「順番を待てるように」トレーニングしても、家庭では兄弟げんかや親の忙しさで、まったく活かされないこともあるのです。
さいごに|「家族まるごと支援」が療育を前に進める
療育とは、単にスキルを教えるものではなく、「安心して成長できる土台を整えること」だと私は考えています。
その土台には、保護者の安心、家族の理解、制度や地域資源の適切な利用が欠かせません。
だからこそ、社会福祉士の視点はこれからの療育現場に不可欠です。
次回は、「困っている親に寄り添うという支援|子ども中心支援の落とし穴」について掘り下げます。
子どもの支援ばかりが強調されがちな現場で、親支援の重要性と葛藤を描く───。