「うちの子、まだ“ママ”しか言えなくて……」
「お友だちと同じ年なのに、話し方が遅い気がする」
そんなふうに、子どもの“言葉の遅れ”に不安を感じている親御さんは少なくありません。けれど実は、言葉の発達にはとても個人差があるのです。
本記事では、社会福祉士・精神保健福祉士として10年以上障害福祉・療育の現場に携わってきた筆者が、言葉が遅い子どもの特徴とその背景、言葉がゆっくりな子への接し方や、日常に取り入れられる「遊び」「声かけ」のコツをわかりやすく紹介します。
「どんな支援をすればいいの?」「家庭でできることは?」と悩んでいる方に、少しでも安心してもらえるような内容になっています。
言葉が遅いってどんな状態?
「言葉の遅れ」とは
子どもの言葉の発達には、以下のようなステップがあります。
- 1歳ごろ: 単語(パパ、ワンワンなど)が出始める
- 1歳半ごろ: 指差しで要求や関心を伝える
- 2歳ごろ: 二語文(ママ、いない/ブーブー、きた)を話す
- 3歳ごろ: 簡単な会話ができるようになる
この目安よりも明らかにゆっくりしている場合、「言葉の遅れ」があると考えられます。
ただし、発音がはっきりしないこと=遅れているとは限りません。
言葉が遅い子の特徴とは?
言葉の発達がゆっくりな子どもには、いくつかの共通点があります。以下に代表的な特徴を紹介します。
① 発語が少ない・単語が出ない
- 2歳を過ぎても「ママ」「ワンワン」などの単語がほとんど出てこない。
- 発語があっても語彙が増えにくく、2語文(例:「ママ きた」)にならない。
② 指差しやジェスチャーが少ない
- 欲しいものを指差さず、取ってもらうのを待つだけ。
- バイバイやちょうだいなどのやりとりが見られにくい。
③ コミュニケーションに興味が薄い
- 名前を呼んでも振り向かない。
- 大人と目を合わせない、共同注意(同じものを見る)が難しい。
④ 模倣が苦手
- 言葉や動作を真似することが少ない。
- ごっこ遊びや人形遊びなどのイメージ遊びが見られにくい。
⑤ 理解力が育ちにくい
- 「おいで」「お手て洗おうね」などの簡単な言葉が伝わらない。
- 言葉のシャワーを浴びていても、受け取る力が育ちにくい。
⑥ 聴覚の問題の可能性も
- 呼びかけに反応が薄い、音に気づきにくい場合は聴力検査の必要も。
- 発語だけでなく、「言葉の理解(受容言語)」がどうかも重要です。
- 言葉の発達は「理解」→「表出」の順に進むので、理解ができているかを観察しましょう。
言葉が遅れる原因とは?

言葉の遅れにはさまざまな背景があります。
1. 発達の個人差
成長には幅があります。特に男の子は言語発達がゆっくりな傾向も。
2. 聴覚や器質的な問題
中耳炎の繰り返しや難聴などが原因の場合もあります。
3. 環境要因
テレビやタブレット中心の環境で「やりとり」が少ないと、言葉の発達に影響が出ることも。
4. 発達障害の可能性
自閉スペクトラム症(ASD)や言語発達遅滞などが隠れている場合も。

大切なのは、「どうして遅れているか」を知ろうとする姿勢。
そして、日々の関わりの中で、子どもの言葉の芽を育てていくことです。
家庭でできる関わり方5選

言葉がゆっくりなお子さんに対して、家庭でできるサポート方法を5つ紹介します。
① たくさん話しかける(実況中継が効果的)
日常の行動を言葉にする「ナレーション育児」を意識しましょう。
例:「ごはんだよ~。スプーンで食べようね」「赤い車、走ってるね」
② ゆっくり・繰り返して話す
テンポは大人の半分、言葉は短く・わかりやすく伝えましょう。
③ 指差しやジェスチャーを取り入れる
「ちょうだい」「バイバイ」などの動きを一緒にやって見せてあげて。
④ 絵本の読み聞かせ
文字よりも絵を指さしながら「これは何かな?」とやりとりを楽しむのがポイント。
⑤ 子どもの発音を真似して返す(オウム返し)
子どもが「あー」と言ったら「そうだね、“あー”って言ったね」と応答しましょう。やりとりの心地よさが、言葉の発達を助けます。
家庭でできる声かけの工夫7選

1. 「〜してみようか」と優しく提案
命令口調よりも、共感や提案のかたちで声をかけると、子どもは安心して言葉を受け取れます。
例:
×「立って!」 → ○「立ってみようか」
×「片付けて!」 → ○「おもちゃ、箱に入れようか」
2. 子どもの発語にゆっくり合わせる
子どもが「ワン!」と言ったら、「そうだね、ワンワンだね」と返してあげる。
共鳴反応は、言葉を育てる土台になります。
3. 繰り返し&ゆっくり話す
「これ、りんご。り・ん・ご、美味しいね」と、ゆっくり・はっきり・繰り返す。
子どもが“言葉のかたち”を理解しやすくなります。
4. ジェスチャーや表情も使う
言葉と一緒に身振り手振りや表情を使うと、言葉の意味が伝わりやすくなります。
「バイバイ〜」と手を振る、「おいしい!」で頬に手を当てる、などが効果的です。
5. 無理に言わせようとしない
「言ってごらん」「なんで言わないの?」などの声かけはNG。
プレッシャーをかけると、かえって発語が遠のくことがあります。
6. 子どもの関心に寄り添う
言葉は「伝えたい!」という気持ちが原動力。
電車が好きな子には「ガタンゴトン」「出発〜!」など、興味のあるテーマで言葉を増やしていきましょう。
7. 遊びの中で「言葉のやりとり」を楽しむ
言葉の練習ではなく、やりとりそのものを楽しむことが大切。
声かけに対して、ジェスチャーでも反応があればOK!そこから少しずつ発語につながります。
言葉を育てるおすすめの遊び5選
遊び名 | 効果 |
---|---|
指差し絵本 | 指を差して「これなに?」→「ワンワンだね!」などのやりとりを楽しむ |
手遊び歌 | 「パンダうさぎコアラ」など、動きと言葉がリンクする遊び |
ままごと | 「ジュースどうぞ」「ありがとう」など、会話のまねっこが自然にできる |
ことばパズル | 動物や食べ物などの言葉カードを使って発語を促す |
音まねあそび | 「ニャーニャー」「ブーブー」などの擬音で遊びながら言葉に親しむ |
相談した方がよいケースとは?

以下のような場合は、専門家に相談してみることをおすすめします。
- 2歳過ぎても発語がまったくない
- 指差し・目線のやりとりが少ない
- 音が聞こえていないような反応
- 言葉以外の発達にも気になる点がある
相談先:
- 市区町村の保健センター
- 発達支援センター
- 児童発達支援事業所
- 小児科・言語聴覚士(ST)
おわりに|ことばは“伝えたい”から始まる
言葉が遅いことに気づいた時、不安や焦りを感じるのは当然です。
けれど、「気づいてあげられた」というその視点こそが、お子さんにとって大きな支えになります。
言葉が出るタイミングは一人ひとり違います。
「話さないからダメ」ではなく、「どんな方法で伝えようとしているのか?」を見つめることが、親子にとっての第一歩です。
家庭での声かけや遊びを通して、子どもの“伝えたい”気持ちを育てていきましょう。
困った時は、一人で抱え込まずに支援機関に相談して大丈夫です。
一番の療育は、親子で笑顔になれる時間かもしれません。